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(小説のネタバレを含むのでご注意ください)
【劇場】
著:又吉 直樹
前作の火花で、小説家としても有名になったピース又吉さんの二作目の小説です。
前作の火花が好きだったので劇場も読む前から楽しみにしていたんですが、期待通り面白かったです。
内容は、劇の演出家である主人公の男性と、女優を目指して上京してきた女性の恋愛の始まりから終わりまでの話です。
主人公の男性が、ヒロインの女性と出会い、付き合っていく過程が割と特殊なのですが、これを素敵と取るか怖いと取るかは人それぞれだと思います。個人的には怖いけど面白いと思いました。
人物たちの背景や、物語の主体が恋愛であること、舞台が東京であることだけを見ると、ごく平凡な内容に感じがちですが、作中の男性の考え方や行動原理がとにかく飛んでいて、行動が常に読めません。また、彼の恋人になったヒロインの女性も、彼と付き合っていけるだけあってそれなりに思考がぶっ飛んでいて、前半はひたすらお似合いな彼らの私生活を楽しめます。
ただ、行動や思考が逸脱していることと、お互いの将来を考えていくことはまた別のことらしく、とてもお似合いだった彼らの生活は、男性が演出家として何も目が出ず、また、女性が歳をとり、20代から30代へと変化していく過程でかげりを見せていきます。
後半で、徐々に徐々に女性が壊れていく様が目の当たりにできるのですが、彼はそんな彼女に違和感や反発を抱き、冷たくなっていきます。
最終的に、彼女が完全に壊れてしまってから初めて、彼は彼女をたくさん気遣ってあげるようになります。この手の話は現実でも腐るほど聞きますが、こういったパターンがあるのかと疑うほど大体同じ末路をたどるなと、読んでいてそこも面白かったです。
個人的には前作火花の、訳の分からない内に訳の分からない感動を得る、ジェットコースターのような話が好きなのですが、人に勧めるのなら劇場だなと思いました。語り部の思考回路の飛び方はそのままに、劇場のほうが色んな方に読みやすい話だと思います。
あと、とにかく文体が詩的で素敵なのもすごく好きです。もしかすると書いている本人はまったくそんなことは気にせず書いていらっしゃるのかもしれませんが、もしそうだとしてもそれはそれで「本をたくさん読まれている方なんだなぁ」という尊敬が産まれます。多方面で好ましいので、劇場に限らず、火花もおすすめです。
有名人だからという色眼鏡を外しても、大変クオリティの高い作品なので、興味のある方、興味はあったけど悩んでいた方は、この機会にぜひ一読されるのはいかがでしょうか。
今回のご紹介は以上です。
読書が誰かの息抜きかつ、イラスト向上になれば幸いです。