イラスト向上のための読書4

イラスト向上の~コラム概要については、こちらをご参考ください。

(小説のネタバレを含むのでご注意ください)

【ブギーポップは笑わない】
著:上遠野浩平

現在、第一線で文筆業を牽引する数多くの有名作家さん方の多くに影響を与えたと有名な、ブギーポップは笑わないです。影響された。というだけあって、以前に読んだ空のごにょごにょ(あえて伏せます)に確かに似ている部分があるなぁと思いました。

本作は学園ものかつ世界ものかつ恋愛ファンタジーです。
学園に通うひとりの少年は、付き合っている少女にデートの約束を無視され、意気消沈としているところに、たまたま見かけた変質者が彼の恋人である少女だったことから物語が始まります。

少女は街中で不気味な恰好をしていましたが、本人はそのことを全く覚えていません。
訝し気に思った少年は、彼女の忘れ去られた奇行に探りをいれます。結果、彼は彼女が二重人格者であることを、もう一つの人格に会うことで知らされます。

彼女の二重人格は病気とは違い、世界に危機が訪れると、自動的に彼女から浮かび上がってくる人格なのだと打ち明けられます。そのことを、彼女である別人格はブギーポップ(不気味な泡)と称します。

彼は戸惑い、恋人である少女の病気を治せないかと試行錯誤しますが、別人格の彼女と話をしている間に、段々と別人格である彼女にも惹かれていきます。
最終的には、世界の危機が去ったことで別人格の彼女はもう浮かばないことを宣言しますが、少年は消えないでほしいと懇願しました。そしてブギーポップは……。

といった流れが、序章になります。これだけでもう一冊の本が出来てしまいそうなのですが、これが序章です。内容が濃いわりにさらっと読みやすく、書き手の方の力量の高さをひしひし感じました。

序章では、少年が少女の二重人格を心配するのみで、「世界の危機」は特に大きく描写されないのですが、この次の章から、徐々にファンタジー色が強くなり、またスペクタルな描写や恋愛要素も大きくはらんできます。

個人的には、マンティコアと早乙女君の化け物カップルが大好きでした。真の化け物とは、理由なき破壊行動を行った早乙女君だと思うので、世界の危機はおそらく彼の方だったんじゃないかなと。

逆に、マンティコアのほうは自分の生存本能に従って行動し、途中からは早乙女君というパートナーに精神的に依存していたので、大変人間くさくそこがよかったです。何をされても常に冷静に人間を観察し、最後の最後まで使命だけを全うしたエコーズの存在意義が、あの形で完璧だったとすれば、確かにマンティコアは、どれだけ怪物的行動をしてたとしても、エコーズとは違い不完全な生き物で、その不完全さが人間的で、それは人間が作り出したからなんだなぁと納得する綺麗な設定と流れでした。

初期の電撃文庫はクオリティが高く、また読みやすい作家さんが多いので、非常におすすめです。息抜きかつ、イラスト向上の助けになれば幸いです。