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イラスト向上のための読書6

イラスト向上の~コラム概要については、こちらをご参考ください。

(小説のネタバレを含むのでご注意ください)

【老後の資金がありません】
著:垣谷 美雨

読んで字の如く、老後の資金問題についてをエンターテインメントに書かれた作品です。
子供が成人して独立し、夫も定年間際。妻である主人公が、せまりくる老後のために貯めていた貯金は一千万!
高いようでしかし足りないかもしれない。という不安を抱えた中、彼女の貯金は娘の結婚式、舅の葬式等のイベントで半分以下に減ってしまします。
大金を失うという憂き目に追い打ちをかけるように、彼女はパート先からリストラ、さらに夫の会社が倒産。あてにしていた退職金は泡と消え、彼女の老後の不安は一層積み重なっていき……。

老後前後のあるある問題が怒涛の展開で流れていき一気に心配になるのですが、かといって、作中の悲壮感はどこかポップで、不思議と暗い気持ちにはなりません。(私がまだ当事者になるほどの年齢ではないので、実感としてとらえにくいのもあるかもしれませんが。もし60代前後の方が読まれたら自分の身と合わせて絶望する可能性もあります)
また、ひとつひとつの問題も、その都度「完全に解決したってわけじゃないけどなんとなく形に収まったな」くらいの解決をしていきます。この、問題からちょっと目を逸らしたままの解決具合が現実的で、タイトルやテーマに合っているなと思いました。

しかし、自分に何も返ってくるわけじゃないのに、結婚式に云百万。葬式に云百万って自分だったら出す前に縁切るなと思いました。が、色んな家庭があって、その過程ごとに家庭ごとのしきたりや問題や、そこに属する人たちの性格が詰まっているわけで。そう考えると、云百万も親族に出したくはないのに、出さなければならない。という状況に追い込まれる人も大勢いるんだよなぁ。と思ったら、しみじみ大変だな、と感じました。

ただ、色んな家庭と色んな家庭問題があるからといって、完全に安泰で理想の家庭環境。というのはほとんどなく、しかしみんながみんな、自分の家庭問題にため息をつきながら、隣の芝生は青く見える心境でいるのが面白かったです。人に弱みを見せない限り、あちらの家はうまくいっている。と見えるものみたいです。これもすごく現実感がありました。

余談ですが、主人公のお友達である個人経営パン屋の奥さんとその旦那さんが、周りとの価格競争に負け、赤字まみれだったパン屋をたたみ、最後は奄美大島に移住することを決めるシーンを読んで、実際に同じような経緯で同じ場所にわたった人が以前いたことを思い出し、人生の最後に必要なのは衣食住と最低限の娯楽なのかもしれないなぁと、これもしみじみ思いました。

家庭を題材にしたエンターテインメント小説らしく、難しい漢字や表現などは一切なく、また文体もとても読みやすくすらすらと読めました。息抜きや読解力の向上だけでなく、今後の参考としても、一読をお勧めしたい一冊です。

今回のご紹介は以上です。
読書が誰かの息抜きかつ、イラスト向上になれば幸いです。

イラスト向上のための読書4

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(小説のネタバレを含むのでご注意ください)

【ブギーポップは笑わない】
著:上遠野浩平

現在、第一線で文筆業を牽引する数多くの有名作家さん方の多くに影響を与えたと有名な、ブギーポップは笑わないです。影響された。というだけあって、以前に読んだ空のごにょごにょ(あえて伏せます)に確かに似ている部分があるなぁと思いました。

本作は学園ものかつ世界ものかつ恋愛ファンタジーです。
学園に通うひとりの少年は、付き合っている少女にデートの約束を無視され、意気消沈としているところに、たまたま見かけた変質者が彼の恋人である少女だったことから物語が始まります。

少女は街中で不気味な恰好をしていましたが、本人はそのことを全く覚えていません。
訝し気に思った少年は、彼女の忘れ去られた奇行に探りをいれます。結果、彼は彼女が二重人格者であることを、もう一つの人格に会うことで知らされます。

彼女の二重人格は病気とは違い、世界に危機が訪れると、自動的に彼女から浮かび上がってくる人格なのだと打ち明けられます。そのことを、彼女である別人格はブギーポップ(不気味な泡)と称します。

彼は戸惑い、恋人である少女の病気を治せないかと試行錯誤しますが、別人格の彼女と話をしている間に、段々と別人格である彼女にも惹かれていきます。
最終的には、世界の危機が去ったことで別人格の彼女はもう浮かばないことを宣言しますが、少年は消えないでほしいと懇願しました。そしてブギーポップは……。

といった流れが、序章になります。これだけでもう一冊の本が出来てしまいそうなのですが、これが序章です。内容が濃いわりにさらっと読みやすく、書き手の方の力量の高さをひしひし感じました。

序章では、少年が少女の二重人格を心配するのみで、「世界の危機」は特に大きく描写されないのですが、この次の章から、徐々にファンタジー色が強くなり、またスペクタルな描写や恋愛要素も大きくはらんできます。

個人的には、マンティコアと早乙女君の化け物カップルが大好きでした。真の化け物とは、理由なき破壊行動を行った早乙女君だと思うので、世界の危機はおそらく彼の方だったんじゃないかなと。

逆に、マンティコアのほうは自分の生存本能に従って行動し、途中からは早乙女君というパートナーに精神的に依存していたので、大変人間くさくそこがよかったです。何をされても常に冷静に人間を観察し、最後の最後まで使命だけを全うしたエコーズの存在意義が、あの形で完璧だったとすれば、確かにマンティコアは、どれだけ怪物的行動をしてたとしても、エコーズとは違い不完全な生き物で、その不完全さが人間的で、それは人間が作り出したからなんだなぁと納得する綺麗な設定と流れでした。

初期の電撃文庫はクオリティが高く、また読みやすい作家さんが多いので、非常におすすめです。息抜きかつ、イラスト向上の助けになれば幸いです。