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(小説のネタバレを含むのでご注意ください)
【老後の資金がありません】
著:垣谷 美雨
読んで字の如く、老後の資金問題についてをエンターテインメントに書かれた作品です。
子供が成人して独立し、夫も定年間際。妻である主人公が、せまりくる老後のために貯めていた貯金は一千万!
高いようでしかし足りないかもしれない。という不安を抱えた中、彼女の貯金は娘の結婚式、舅の葬式等のイベントで半分以下に減ってしまします。
大金を失うという憂き目に追い打ちをかけるように、彼女はパート先からリストラ、さらに夫の会社が倒産。あてにしていた退職金は泡と消え、彼女の老後の不安は一層積み重なっていき……。
老後前後のあるある問題が怒涛の展開で流れていき一気に心配になるのですが、かといって、作中の悲壮感はどこかポップで、不思議と暗い気持ちにはなりません。(私がまだ当事者になるほどの年齢ではないので、実感としてとらえにくいのもあるかもしれませんが。もし60代前後の方が読まれたら自分の身と合わせて絶望する可能性もあります)
また、ひとつひとつの問題も、その都度「完全に解決したってわけじゃないけどなんとなく形に収まったな」くらいの解決をしていきます。この、問題からちょっと目を逸らしたままの解決具合が現実的で、タイトルやテーマに合っているなと思いました。
しかし、自分に何も返ってくるわけじゃないのに、結婚式に云百万。葬式に云百万って自分だったら出す前に縁切るなと思いました。が、色んな家庭があって、その過程ごとに家庭ごとのしきたりや問題や、そこに属する人たちの性格が詰まっているわけで。そう考えると、云百万も親族に出したくはないのに、出さなければならない。という状況に追い込まれる人も大勢いるんだよなぁ。と思ったら、しみじみ大変だな、と感じました。
ただ、色んな家庭と色んな家庭問題があるからといって、完全に安泰で理想の家庭環境。というのはほとんどなく、しかしみんながみんな、自分の家庭問題にため息をつきながら、隣の芝生は青く見える心境でいるのが面白かったです。人に弱みを見せない限り、あちらの家はうまくいっている。と見えるものみたいです。これもすごく現実感がありました。
余談ですが、主人公のお友達である個人経営パン屋の奥さんとその旦那さんが、周りとの価格競争に負け、赤字まみれだったパン屋をたたみ、最後は奄美大島に移住することを決めるシーンを読んで、実際に同じような経緯で同じ場所にわたった人が以前いたことを思い出し、人生の最後に必要なのは衣食住と最低限の娯楽なのかもしれないなぁと、これもしみじみ思いました。
家庭を題材にしたエンターテインメント小説らしく、難しい漢字や表現などは一切なく、また文体もとても読みやすくすらすらと読めました。息抜きや読解力の向上だけでなく、今後の参考としても、一読をお勧めしたい一冊です。
今回のご紹介は以上です。
読書が誰かの息抜きかつ、イラスト向上になれば幸いです。